ひとつの事故で受け取れる慰謝料は?

交通事故オンライン損害賠償編

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伊佐行政書士事務所

わかりにくい慰謝料

『自賠責の慰謝料のほかに、相手の任意保険からも請求したいのですが・・・』 『相手の任意保険の慰謝料とは別に、加害者にも慰謝料を請求したいのですが・・・』こういったご相談をしばしば受けることがあります。 交通事故損害賠償の理解の難しさがこのようなご相談をいただくことによってよくわかります。 被害者の立場から見ると、加害者、自賠責保険、任意保険と請求先が複数あることが、このような誤解を招く一因となっているようです。

慰謝料は一つだけ。二重取りはできません

自賠責保険や任意保険は、加害者が負担しなければならない損害賠償金を、代わりに払ってくれるにすぎません。 ですから、慰謝料は一つしかなく、三者のいずれかから全額賠償を受けることができれば、 同じ損害について他の者から支払を重複して受けられるということはないのです。

任意保険と自賠責保険の関係

自賠責保険と任意保険の関係も、両方の保険があるからといって賠償金が多くなるという関係にはありません。 自賠責保険では最低限の保障がされ、任意保険では、自賠責では不足する分を上積みして補足的に支払うといった役割があり、二重取りはできないのです。

例えば、ある交通事故で、法的に妥当な慰謝料の金額が50万円だったとします。この場合、被害者は、加害者に対して慰謝料として50万円請求できることになりますが、 通常は次のいずれかのパターンで支払われます。

  • ①加害者が保険を使わずに50万円払う。この場合被害者は、自賠責にも任意保険にも慰謝料の請求はできません。
  • ②自賠責保険から慰謝料が50万円支払われた。この場合被害者は、加害者本人にも任意保険にも慰謝料の請求はできません。
  • ③自賠責で30万円、任意保険から20万円慰謝料が支払われた。この場合被害者は、加害者に慰謝料の請求はできません。 誤解を受けやすいのは、次のような場合です。
  • ④自賠責で30万円、任意保険から10万円慰謝料が支払われた。この場合被害者は、妥当な金額に10万円届きませんので、 その10万円を任意保険か加害者に請求できます。請求が認められても 両者から重複して支払ってもらうことはできません。一般的には加害者ではなく、任意保険会社に請求します。

Q&A

【Q】入通院慰謝料と、傷害慰謝料は、別のものですか?

【A】入通院慰謝料と、傷害慰謝料は同じもので、言い方が違うだけです。

【Q】入通院慰謝料と、後遺障害慰謝料は、別のものですか?

【A】はい、別のものです。別々に計算し、双方とも別々に請求できます。

【Q】入通院慰謝料と、死亡慰謝料は、別のものですか?

【A】はい、別のものです。別々に計算し、双方とも別々に請求できます。

【Q】被害者本人の死亡慰謝料と、近親者の慰謝料は、別のものですか?

【A】はい、別のものです。別々に計算し、双方とも別々に請求できますが、近親者の慰謝料を、被害者本人の慰謝料に含めて請求する場合もあります。 別々に請求しても、含めて請求しても、認められる金額は普通一緒です。

赤い本と青本

財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という本は、表紙が赤色であることから、赤い本 と呼ばれています。財団法人日弁連交通事故相談センター発行の「交通事故損害額算定基準」という本は、 表紙が青色であることから、青本と呼ばれています。双方とも編集者が裁判例の傾向等を参酌し、算定基準として公表しているもので、 自動車事故の損害賠償求について理解を深めるためには必読の書です。

赤い本や青本の基準は、一般に「弁護士基準」といわれています。同じ弁護士基準でも、編集者が独自に基準を定めているため、 その内容は似ているもののわずかな違いはあります。例えば、後遺障害等級14級の慰謝料は、赤い本では110万円、青本では90~120万円(平成20年現在) とされています。

どちらを使うのか

時折「赤本と青本、どちらの基準で請求するのが正しいのでしょうか」というご質問をいただく場合がありますが、 これは特にどちらが正しいということではありません。地方によってどちらの基準を使うという傾向(関東は赤い本、関西や他の地方は青本など) は存在するようですが、どちらの基準を使ってもかまわないでしょう。 ただし、基準に振り回されないようにすることが大切です。 裁判をすれば必ず赤い本の慰謝料が認められるわけではありません。あくまでも一つの基準として利用されているにすぎず、事件ごとに異なる事情に応じて、適切な慰謝料が認定されます。 裁判外の話し合いでも同じことです。基準は確かに大切ですが、それに踊らされることなく、妥当な金額の請求を心掛けるのが円満な解決の秘訣といえるでしょう。