自転車事故と示談

交通事故オンライン損害賠償編

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伊佐行政書士事務所

自転車事故の諸問題(1)

自転車は生活に密着した乗り物として、幼児から高齢者まで、あらゆる年齢層の男女に幅広く利用されています。 年齢制限がないことから、交通ルールに対して警戒感が低いと思われる若年層(小、中、高校生など)が歩道を高速で走りぬけていく光景は、 日常的なものとして特に違和感を覚えずに受け入れている人も大勢いることでしょう。

日本の雑然とした道路状況を見れば、車道と歩道が区別されている道路があれば「自転車が車道を走っては危ない」と考えてしまうこともうなずける事です。 自転車を利用する人間としても「車は急に止まれない」が、「自転車はすぐに止まれる」「簡単によけることができる」という意識が強いように思います。 そのため後ろから歩行者の脇をすり抜けたり、見通しの悪い交差点を勢いよく右左折する自転車が多いです。

しかし自転車の事故届けは少ないわけではなく、警察庁による統計では、自転車と歩行者の事故、自転車同士の事故だけでも、年間6000件以上の届け出があるといいます。 死亡事故こそ少ないものの、治療に何カ月もかかったり、後遺症が残ったりする事故が少なくないことは、私の相談経験からも推測できるところです。

平成20年6月道路交通法改正により、自転車の交通ルールが見直されました。しかしこれは歩行者を保護するというよりも、今までは自転車での走行を禁止されていた歩道を、 条件付きで自転車の走行を認めるというものであって、今までは法律によって車道に追いやられていた自転車の歩道の走行を一部認めて保護しようという内容になっており、自転車事故を減らす効果は期待できません。 自転車の歩道走行可能な場所をを拡大する以上、自転車事故のリスクは増大していると考えられます。これを防ぐには、既存の法律による取り締まりを強化するしかありません。 道路交通法は、自転車が歩道を通行するときの徐行義務や通行を妨げることとなるときの一時停止義務、歩行者の側方を通過するときの間隔保持義務などを定めています。

統計によると平成19年頃から自転車の交通違反による検挙数は急激に増加しています。 これは自動車との事故も含めた自転車事故減少のための行政の施策の現れといってよいでしょう。 要は「自転車は車両である」こと、「歩道では歩行者が優先である」ことなどを徹底させたということです。

このように、事故自体の数を減らそうという取り組みは行われています。自転車専用レーンの整備を進めている自治体もあリます。 しかしそれでは不十分なのです。事故が起きてしまってからの対応がないがしろにされているのです。 自転車事故はいったん事が起きてしまうと、自動車事故よりもその解決が困難なケースが多いという問題を抱えているのです。

自転車と歩行者の事故の場合は、保険会社が介入することが少ないため、 加害者被害者双方ともどう解決していけばよいかわからずに、困惑している例が多いようです。 基準がわからないため過失割合や後遺症の有無などで考えが一致しないことが多く、 疑心暗鬼に陥り紛争化しやすいという特徴があります。

また、自転車と歩行者の事故で怪我をするのは高齢者が多く、問題を複雑化させる原因にもなっています。 高齢者の場合は、自転車と衝突した場合に大した衝撃ではなくても転倒する場合もあります。 その転倒によって、骨折を起したりする場合があるのです。

加害者側としては、「ぶつかる前に気がついてブレーキをかけたし、そんなに強くぶつかっていない。 それで骨折で入院なんていわれても、そんなところまで責任を取らなければいけないのでしょうか。」ということになり、 被害者側としては「自転車がぶつかって入院する羽目になったのだから、 入院代を負担してもらうのは当たり前のこと。」 となるわけです。加害者と被害者の間には遠慮や怒りがあるため、 被害者の怪我の程度や治療の必要性などの情報が上手く伝わりません。 例えば一口に「足を骨折して入院した」といわれても、 足骨なのか大腿骨なのか、 大腿骨なら頚部骨折なのか骨頭部なのか骨幹部なのかなどによっても、入院の期間や後遺障害が残る可能性などが全く異なってきます。 また、高齢者の場合は、入院中に肺炎を起して入院期間が長引いたとか、骨粗しょう症のために、普通よりも長く入院したとかいう問題も起こってきます。

自転車事故の諸問題(2)

1.損害賠償責任保険の普及

自転車事故に特有の問題として筆頭に挙げられるのは、何といっても賠償責任保険の問題です。 自動車を購入するときには、強制保険と呼ばれる自賠責保険に必ず加入しなければなりません。 それから自賠責保険だけではいざという時の補償には不十分であるということも広く認知されており、 別に自動車保険(いわゆる任意保険)に自主的に加入している人の割合は、7割以上にのぼる(日本損害保険協会統計)とされています。

一方、自転車の損害賠償責任保険の加入率については大規模な統計調査は行われていないようですが、 強制保険がない分、自動車に比較して加入率が劣っていることは明白です。 因みに任意に加入できる自転車向けの賠償責任保険としては、次のようなものがあげられます。

(1)個人賠償責任保険
日常生活の中で賠償責任を負った場合に支払われます。自転車事故による損害賠償責任も担保されています。 賠償限度額は契約により異なります。単独で契約されているケースもありますが、自動車保険や火災保険などの特約として加入しているケースが一般です。

(2)TSマーク付帯保険
自転車安全整備士番号が記載されたTSマークが添付された自転車が対象となります。 有効期間は点検日から一年間。青色TSマークの場合、死亡もしくは重度後遺障害(第1級~第7級)に対して1000万円の賠償責任補償がされます。 赤色TSマークの場合、死亡もしくは重度後遺障害(第1級~第7級)に対して5000万円、15日以上の入院に対して10万円の賠償責任補償がされます。

上記のうちTSマーク付帯保険については、第8級以下の後遺障害に関する損害については担保されていません。 自転車事故において比較的よくみられる事故形態として、高齢者が転倒して大腿骨を骨折し、股関節が人工関節となるケースが考えられますが、 この場合でも後遺障害等級は第8級に留まる可能性があります。損害額はケースバイケースであるものの、 第8級の損害ともなれば1000万円を超えることは容易に想像されます。 自転車事故の多くが第8級以下の後遺障害しか残さないという前提では、TSマーク付帯保険は、実際には役に立たない可能性が大きいといえましょう。

個人賠償責任保険に加入していない者人は、自動車購入時もしくは保険の更新時に特約加入を見直す機会はあるものの、 自転車の購入時に特約加入を勧められることはまずないといってよいでしょう。 そうした環境も自転車事故で利用できる保険加入率があがらない原因の一つとなっているといえるでしょう。

加害者が賠償責任保険に加入している場合は、法律上妥当といえる損害額については適切に補償を受けることができる可能性が高いですが、 保険未加入の場合は問題が生じます。たとえば手首を骨折して6ヶ月間通院し、第12級程度の後遺症が残った場合、 その損害額は1000万円程度となる場合もあります。加害者に十分な資力がある場合はよいですが、無資力だった場合は治療費さえ回収できないことも考えられます。 たとえ訴訟で勝ち、1000万円の損害を認容する判決を得ても、加害者に資力がなければ賠償は受けられないのです。国が肩代わりしてくれるわけではないのです。

自動車の場合は自賠責保険が使えない場合の救済策として政府保障事業の制度がありますが、自転車の場合はそのような救済手段はありません。 加害者に資力がない場合に、被害者に自衛手段としてできることといえば、傷害保険に加入しておくこと、 治療は健康保険を利用すること、労災が適用できる場合は、労災により治療を受けること、 加害者側の使用者責任を追及できる余地がないか検討しておくことなどに限られるでしょう。

2.専門知識の欠如

 

自転車事故では損害賠償責任保険に加入していない人が多いですが、このことは加害者の賠償資力の問題のほか、専門的知識の欠如という問題も抱えています。 自動車保険の場合は示談代行の契約がされているのが通常であるため、加害者側の保険会社が加害者に代わって示談交渉を行うのが通例となっています。 被害者からみれば利益相反する相手方に専門知識をもつものが立つため、不利に交渉を進められるケースが多いともいえますが、 それでも話し合いの流れや所々で必要とされる手続き等については保険会社がリードして形式の維持に努めるため、ある程度のところまでは順調に進行してゆくものです。

ところが双方が素人で専門知識を持った者がかかわらないケースでは、初期段階から戸惑うことになります。 治療は健康保険を使うのか、労災を使うのか。健康保険を使う場合の第三者傷病届けとは何なのか。 治療費はいつ誰が支払うのか。休業損害はどう計算し、いつ支払うのか。慰謝料はどちらがどう計算し、いつ支払うのか。 加害者は本当に払う気があるのか。保証はあるのか。治療はいつまで続けられるのか・・・。 こうした戸惑いや不安がコミュニケーションの障害となり、相互に不信が高まってゆきます。 当初は「加害者の人はちゃんと対応してくれている」といっていた被害者が、後になって「加害者は信用できないいい加減な人間だ」というように評価を変えるのは、 大概はこうした理由によるものです。

また、素人である当事者間の話し合いのみで長期間経過した事案では、一般に必要とされる手続きが適正に行われていないケースが多いです。 事故を警察に届けていない。事故態様に争いがあるのに、証拠を保全していない。診療明細を保管していない。 既払金の領収書を保管していない。必要な治療を受けていないなどのことです。こうした未熟な事故処理が、のちの問題解決を複雑かつ困難なものへと変えてゆくのです。

事故の損害賠償問題の解決には、治療や症状固定に関する知識、後遺障害に関する知識、過失相殺率に関する知識、 損害額の計算方法に関する知識、示談に関する知識などが必要とされます。初期段階より、こうした知識をバランスよく持った人間が関与することが望まれますが、 現状ではそれを実現しようと思えば、行政書士や弁護士などの専門家に有料で相談をするしかありません。しかしそれには費用の問題をクリアしなければなりません。 低額の費用で慰謝料の金額などを争う場としては行政書士会のADRの利用も考えられますが、これはある程度機が熟した紛争を解決する場であって、 紛争予防もしくは紛争準備段階のアドバイザーとしての機能は期待できないでしょう。 このように自転車事故は、専門知識のあるものが関与して事故処理を進めてゆける環境が整っていないことが問題となることが多いのです。

3.後遺障害等級の認定

自動車事故で後遺症が残るけがをした場合は、後遺症の程度に応じた自賠責保険の支払いのために等級付けがされることとなります。 等級認定は損害保険料率算出機構に設置された損害調査事務所というところで医学的資料を重視した客観的な査定が行われており、 交通事故の後遺障害に関する損害賠償額の計算においては、礎として重要な役割を担っています。

ところが自転車事故にはこれに相当する等級認定制度がありません。労災事故であれば自転車事故でも労災の後遺障害等級認定の制度が利用可能であるので、 それを参考に損害額を計算すればよいですが、労災が使えない場合は、被害者自らが後遺症が第何級に相当するのかを証明しなければなりません。 自賠責保険の調査事務所による等級評価システムは、一見簡易なようにも見受けられますが、実は大変複雑な判断がされています。 自賠責保険には後遺障害別等級表や認定基準というものが存在し公にされているものの、 部外者が目にすることが可能なものは、ごく限られた「一般的な」情報にすぎません。

調査事務所による一般的な等級認定タスクは、被害者から提出される後遺障害診断書によって進められます。 その他経過的な診断書や必要に応じて検査画像等を収集し、第何級に該当する可能性があるか調査されます。 場合によっては医師に対して医療照会が行われ、不明確な情報が補われることもあります。 医師の判断が必要な事項も多く存在し、診断書などの医学的な証明資料を揃えるにも相当高度な知識を要求されます。 実務経験のないものが自賠責の基準に従って説得力のある等級評価をなすことは、上肢または下肢の切断など、 ごく一部の見た目が明らかな障害等級以外は不可能と言い切ってよいでしょう。

自転車事故で労災の等級認定を受けられないケースでは、後遺障害に詳しい行政書士等の支援を受けることが勧められますが、 それが難しいか、またはそれによらずとも加害者側と合意できる見込みである場合は、少なくとも次のことに注意して等級を考えてみるとよいでしょう。

(1)「痛み」の後遺症は、将来にわたって症状が残存する見込みがあることが認定の条件となります。 また、その原因が画像などにより証明されなければ12級にはなりません。証明に至らず、矛盾のない説明が可能であれば14級となります。

(2)「関節の可動域制限」の後遺症は、測定値のみでは等級認定はされません。制限される原因が画像などによって医学的に証明される必要があります。

(3)後遺症の原因の証明とは、「画像により器質的な損傷が確認できる」というケースが多いですが、 他の方法で証明が可能な場合もあります。逆に画像で損傷が確認できたとしても、事故による損傷といえない場合は証明できたことにはなりません。

3-1.個人賠償責任保険と後遺障害等級

加害者側が個人賠償責任保険に加入している場合、法的に妥当な損害額については保険限度額までは支払われますが、 後遺障害については自賠責基準に準じた証明を行わなければ、保険会社は後遺症による損害を認めようとはしないでしょう。 仮に被害者と加害者で後遺症の存在を認め合って、それに応じた金額の示談を約した場合であっても、保険会社はその約定に拘束されず、 あくまでも「法的に妥当かどうか」という視点で査定が行われます。 そのため加害者が個人賠償責任保険に加入している場合は特に、専門家の支援を受け、後遺障害等級の客観的な証明に力を注ぐべきでしょう。

4.未成年者の責任能力

自転車は幼児から高齢者まであらゆる年齢層の人々が利用しています。 免許証を持てない小中高校生にとってはなくてはならない交通手段ともいえるでしょう。 そのためこれら未成年者が加害者となる自転車事故は珍しいことではありませんが、この場合、未成年者の不法行為に関する責任能力が問題となります。 「子供の不始末は親の責任」。道義上はそういった考え方もできるでしょうが、民法は必ずしもそういう立場をとってはいません。 責任能力を持たない未成年者は不法行為による損害賠償責任を負わないとされていますが、 この場合は親が民法第714条の監督義務者責任を負うこととなるため、「子供の不始末は親の責任」という主張がとおるわけですが、 未成年者が責任能力を持っている場合は未成年者自身に責任が生じるため、親の監督義務者責任を問うことは困難となるのです。

未成年者に責任能力が備わっているか否かについては、不法行為の内容や個人の成育状況などにより個別に認定されます。 年齢により区分されているわけではないものの、判例上は概ね小学校卒業程度であれば責任能力ありと判断されるようです。 そうすると中学生や高校生が加害者となる自転車事故では、基本的に賠償義務者は未成年者本人のみとなる可能性が高いのです。 中高生が加害者となった場合でも、両親が任意に賠償に応じる場合や個人損害賠償責任保険に加入している場合はよいですが、 そうでない場合は被害者は途方に暮れることになります。一般に資産を持たない中高生に対しては、損害賠償請求をなすすべがないからです。 慰謝料はおろか治療費についてもすべて自費で賄わなければならないケースもあります。 両親の債務引き受けや監護義務懈怠の追及など、早期に適切な対応をしておくことにより、 被害者はこのような窮地に追い込まれずに済むケースもありますので、早い段階で専門家に相談すべきでしょう。

【第714条】(責任無能力者の監督義務者等の責任)
  『前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、 その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、 又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。』

5.自転車の交通ルール

(ア)自転車は、歩道と車道の区別のあるところでは、原則として車道を走行しなければならない。ただし、次の場合は歩道通行が可能となる。
①道路標識などで指定された場合。
②運転者が13歳未満の子供、70歳以上の高齢者、身体の不自由な人の場合。
③車道または交通の状況からみてやむを得ない場合。
また、著しく歩行者の通行を妨げる事となる場合を除き、路側帯を通行することができる。

(イ)自転車道があるところでは、原則として自転車道を通らなければならない。

(ウ)ヘルメットの着用努力義務
児童や幼児を保護する責任のある者は、児童や幼児を自転車に乗車させるときは、自転車乗車用のヘルメットを被らせるように努めなければならない。

(エ)車道や自転車道では、原則として左側にそって進行しなければならない。ただし、標識や標示によって通行区分が示されているときは、それに従わなくてはならない。

(オ)歩道では、原則としてすぐに停止できる速度で走行し、歩行者の進行を妨げる場合は一時停止しなければならない。

(カ)飲酒運転・二人乗り・並進の禁止。夜間のライト点灯。信号機や一時停止標識などの遵守。安全確認の励行。

(キ)人の形の記号のある信号は、歩行者と横断歩道を進行する普通自転車に対するものだが、その他の自転車もその信号機に「歩行者・自転車専用」と表示されている場合は、その信号機の信号に従わなければならない。

(ク)道路外に出るため左折するときは、あらかじめその前からできるだけ道路の左端によって徐行しなければならない。道路を右側に出ようとする場合であっても、道路の中央を通行してはならない。

(ケ)左折するときはあらかじめできるだけ道路の左端により、右折するときは二段階右折により徐行しなければならない。

自転車事故の諸問題(3)

 

事故報告の義務

道路交通法72条1項に、交通事故の場合の措置についての規定があります。 「車両等の交通による人の死傷又は物の毀損(交通事故)があったときは、当該車両等の 運転者その他の乗務員は、 直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。 この場合において、当該車両等の運転者は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、 警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署の警察官に 当該交通事故が発生した日時及び場所、 当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、 当該交通事故に係る車両等の積載物 並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。」

ここでいう「車両」とは、自動車、原動機付自転車だけはでなく、軽車両も含まれています。したがって、 自転車と歩行者の事故や自転車同士の事故であっても、 道路交通法に基づき、警察に事故を報告する義務があるのです。

※軽車両とは自転車や荷車などのことをいいます。身体障害者用の車椅子や小児用の車は軽車両ではありません。 セニアカー(シニアカー)は歩行補助具という位置づけがされており、道路交通法上は歩行者として扱われます。 ローラースケートやスケートボードは遊具・スポーツ用具です。道路交通法76条で交通の頻繁な道路で使用することは禁止されています。

 

治療費

自動車事故の場合は、自由診療といって健康保険を使わずに治療を受けることが多いですが、自転車の事故の場合は、 加害者が損害賠償責任保険に加入していない場合が多く、 治療費が高額になると支払いが困難になるケースも考えられます。 健康保険を利用した方が治療費は安く済みますので(自由診療の単価は、病院によって違いがあります)、 治療費が高額になる恐れがある場合は、はじめから健康保険を使用して治療を受けた方がいいでしょう。

治療費の窓口負担分は、一定の期間若しくは一定の金額の領収書がたまったら、その都度加害者が清算するようにして、 被害者の経済的負担が軽減できるように 配慮した方が良いでしょう。

 

謝罪

相談者の話を聞いていますと、常識的な謝罪ができない人が増えてきているように思えます。 事故現場で別れたきり、電話もないと嘆く被害者が多くなっています。

具体的な謝罪の仕方は、『被害者宅を訪問して謝罪の言葉を述べる』 『菓子折を持参する』『金銭を包む』などの方法が考えられます。 双方の過失の大きさ、怪我の程度、 どれだけ迷惑をかけたかなどにより、なすべき謝罪の程度も異なりますが、相手に怪我をさせた場合は、 少なくとも当日中に様子を尋ねる電話を入れて、後日謝罪に伺いたいと申し出るのが礼儀でしょう。 被害者としても加害者にそのような対応をしてもらうことによって、次第に加害者を許す気持ちが生まれてくるものです。 加害者が怖いから、文句を言われたくないからと、逃げ隠れするのはしてはならないことです。

 

示談

被害者が怪我をした場合は、怪我が治った時点で慰謝料等の計算をして示談をすることとなります。 損害額の計算方法は、自動車事故と基本的に変わることはありません。 治療費や通院交通費、休業損害などを示談に先駆けて 被害者に支払う場合は、その都度領収書などを受け取っておきましょう。 慰謝料等の金額は、双方の話し合いで決めます。金額がまとまったら示談書を用意して双方 署名捺印をします。

 

請求または提示

治療が終わって損害が確定できる状況になりましたら、費目ごとに損害額を計算します。加害者側から計算して提示するか、 被害者側が計算して請求するか、どちらが先にすべきか特にルールはありませんが、なるべく加害者側で計算をして、 被害者側に提示した方がいいと思います。 損害を立証するのは被害者側がなすべきことですが、 損害の計算は容易ではありません。被害者側の気持ちとしては『なぜこんな大変な計算をしなければいけないのか。 加害者側でしてくれればいいのに』等のように感じることが多いからです。

休業損害をどこまで支払うべきなのか、慰謝料はどの程度支払うべきなのか、これらは難しい問題です。 一般的な計算をして、それ以上の金額を支払ってでも円満に解決したいというような加害者であれば、 話はまとまりやすいですが、 賠償金をいくらでも出せる人はそうはいません。 ほとんどの加害者は、賠償したいのは山々だが、一般的な相場以上には支払えないと考えるでしょう。 そうすると多くの場合、加害者の提示額は、一般的な基準額を参考にした金額か、それを下回る金額となります。

ここで難しいのが『基準』となる金額です。自動車事故のやり方を参考にする場合、自賠責保険の計算方法、任意保険基準の計算方法、 弁護士会の基準の計算方法など、様々なものがあり、その計算方法の理解は容易ではありません。 なんとか計算方法が理解できた場合でも、 どの基準を使って計算すべきか、計算に必要な前提となる事実をどの様に捉えるべきか、 考えなければならないことは沢山あります。 軽傷の場合は容易に計算できる場合もありますが、 重傷であったり、後遺症が残ったりした場合は、考えれば考えるほど妥当な金額がいくらなのか、 自信が持てなくなるのです。 加害者としては妥当な金額提示ができるように、できるだけ専門家に相談してから金額提示をすべきだと思います。

 

話し合い

相手方の主張内容に不満がある場合は、話し合いによる解決を目指すことになりますが、 そうはいってもどのような話をして進めていけばよいのか、 さっぱりわからないという方が多いと思います。 好ましくない典型的な例としては、明確な根拠を示さずに金額が低すぎるといってみたり、加害者側の非を責めるばかりで、 損害賠償の話し合いが進まないというものがあります。相手方を感情で説得しようとしては、態度を硬化させるばかりで、話し合いの進展は望めません。

『妥当な金額なら、払いたい』多くの加害者がそう考えています。ですから被害者としては『何が妥当な金額なのか』 ということを加害者にわかってもらうようにすることが解決への早道になります。 そのために自分の損害を証明するに足る、客観的な資料をなるべく多く揃えるようにしてください。 加害者側としては、被害者側の資料を誠実に検討し、疑問があれば追加資料を依頼するなどして、誠実に対応することが望まれます。

 

ADR(裁判外紛争解決手続き)の利用

双方の考えに相違点が多かったり、感情的な対立が激しく話し合いが困難な場合は、 ADRを利用すると進展がみられる場合があります。 ADRというのは、裁判によることなく、 公正な第三者の関与により双方の互譲を前提に法的なトラブルを解決する手続きのことをいいます。 行政書士会の運営するADRは、東京、神奈川、愛知、京都、新潟、和歌山、岡山などに設置されつつあります。 自転車事故の取り扱いの有無については、 直接各センターへお問い合わせください。

   

事例

中学生の自転車に衝突され、嗅覚に後遺症が残った事例

商店街通りの脇道を歩行横断中に、斜め前方から走ってきた自転車に衝突された事故です。 勢いよく転倒し、 頭や身体を強く打ち、脳挫傷や頚椎捻挫などで三日の入院の後、通院治療を開始しました。

幸い中学生の父親が、個人賠償責任保険に加入していたため、治療費や慰謝料は、保険金で支払ってもらうことができます。 約一年後に症状固定とされ、医師に診断書を書いていただきました。嗅覚に障害が残り、生活に支障があります。 においがわからないために、食べ物の味の感じ方もおかしくなってしまいました。 相手方は14級の後遺障害に相当するとし、 14級を前提に保険金を支払うとの申し出をしてきましたが、それで妥当なのかどうか・・・ということで相談にみえられました。

当事務所で損害賠償請求書や後遺障害等級に関する資料を作成し、依頼者様がそれをもとに話し合いを持たれたところ、 相手方は12級相当の後遺障害を認め、妥当な金額が保険から支払われることとなりました。

赤信号無視の自転車に衝突され、大腿骨を骨折した事例

自転車に跨ったまま信号待ちをしていたところ、道路の向こう側から信号無視で横断してきた自転車が衝突しました。 その場で転倒し、足の痛みで動けず、 救急車に来てもらいました。検査の結果、大腿骨が骨折しており、一ヶ月以上の入院を余儀なくされました。 相手の人は保険に入っていませんでしたが、幸い通勤途中の事故だったため、治療費は労災から支払われることとなりました。

10ヶ月ほど通院をし、12級の後遺症が残りました。そのことを相手に伝えると、しばらくしてから、 自分には責任がないという内容の通知が届きました。 相手の言っていることに間違いはないのでしょうか・・・というご相談を受けました。

当事務所で損害賠償請求書等を作成いたしましたが、相手の方が自分には責任はないの一点張りで、 話し合いは難航しました。最終的に当事務所の紹介で弁護士に委任し、訴訟により解決することとなりました。

歩道を自転車で走行中に、穴に転落した事例

相談者様は、夜間歩道を自転車で走行中、歩道上にぽっかりと空いた穴に気がつかず転落し、前腕骨骨折などの重傷を負いました。 放置されていた穴が危険な状態であったため、道路管理に瑕疵があったとして、ご自分で管理者に賠償請求をしたいとのご相談でした。

当事務所で現場調査を行い、調査報告書と損害賠償請求書を作成いたしました。 依頼者様はそれを参考に道路管理者と話し合いを持ったところ、当初は過失ゼロを主張していた管理者側が譲歩し、 50:50で話をまとめる事が出来たとのことです。