慰謝料はどのような場合に斟酌されるか

交通事故オンライン損害賠償編

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伊佐行政書士事務所
  1. 個別事情を反映させることの難しさ
  2. どのようなことが斟酌事由となりえるのか

個別事情を反映させることの難しさ

「事故後加害者は一度も謝りに来ず、誠意が全く感じられない。」「事故後の通院のせいで、楽しみにしていた旅行の計画を変更した。」 「会社を休まざるを得ず、会社に大変迷惑をかけた。出世にも影響があると思う。」これらは被害者の口からよく聞かれる言葉です。任意保険会社の表や自賠責のやり方で慰謝料を計算されたが、 自分はそれだけではなく、こういった間接的な被害もいろいろと受けているので、その分を加算してもらわなければ到底納得できない、という主張です。 これは至極尤もな考え方であり、慰謝料が精神的損害に対して支払われる賠償金であるならば、そういった事情全てを金額に換算して、賠償額に組み込めばよいとも考えられます。

しかしそれらの事情を全て金額に換算して慰謝料に加算するというのは、容易な事ではありません。 例えば旅行を変更したための精神的損害を金額に換算するというだけでも、いろいろな事情が考えられます。 被害者の年齢が若ければまたいつでも旅行にいけるが、高齢者の場合は旅行にいける最後のチャンスだったかもしれません。 時間に余裕のある学生と、仕事で多忙でここ数年時間がとれず、やっとスケジュールを調整して予約した会社員では苦痛の程度も異なるでしょう。 海外旅行に行く予定だった者、日帰りの予定だった者といった違いでも、苦痛の大きさは異なるはずです。 これら全てについて、その金額を個別に基準化することは現実的な作業ではありません。 そういった事情もあり、また、そもそも他人の精神的苦痛の大きさを明確にする事などは不可能とも言えることですので、ある程度の事情については一般的な不利益として 慰謝料表の金額に含まれると考えられています。 注がれた水がコップからあふれでた時、初めて一定の限度を超えたとして金額に反映されると考えるといいかもしれません。

どのようなことが斟酌事由となりえるのか

程度や因果関係、立証の問題は別にして、慰謝料を斟酌するような特別な場合としては、退職、廃業、入学、留年、昇進、流産、中絶、離婚などが考えられます。 これらの事情から蒙る不利益は慰謝料表から導いた数字では評価しきれない場合がありうるでしょう。そのような場合は個別の事情に応じ、慰謝料算定にあたり斟酌すべきですが、 増額すべき金額については基準化はされていません。

退職や廃業については、被害者の年齢や勤続年数なども考慮されるべきでしょう。例えば40歳を過ぎる年齢で平均賃金程度の収入があった場合、 再就職によって同等の収入を得ることは困難といえるのではないでしょうか。廃業をやむなくされた場合は、投資費用など間接的な損害も発生します。再び起業することが可能だとしても、 大きな労力が必要と思われます。入学試験の機会を失い、家庭の事情や年齢制限などで受験を断念するような場合もあるでしょう。留年することや昇進が見送られることは、今までの頑張りが 無駄になってしまう場合もあります。流産や中絶を余儀なくされることは、特に母親には深い心の傷を残す可能性があります。 離婚を余儀なくされるまでには、辛い家庭生活が長く続いたとも考えられます。こうした事情がある場合は、充分に考慮された慰謝料が支払われるべきであると思いますが、 現実には厳しい判断がされることが多いようです。

加害者の重過失

飲酒運転、ひき逃げ、大幅なスピード違反など、加害者側の違法性が高い場合は、被害感情が強くなるのが通常です。 このように加害者の悪質性が高い場合は、一般的な基準に加えて慰謝料が増額されるケースが多いです。

事故後の加害者の態度が悪い場合も慰謝料の斟酌事由となります。暴言を吐いたり、自己保身のため嘘をついていたり、 謝罪が一切ない場合なども、慰謝料が増額される場合があるでしょう。

飲酒運転の加害者に自己負担で賠償させたい

相手方の飲酒運転で対向車線逆走による車の衝突です。 私は、首と腰にケガをし29日間会社を休みました。相手方とは、事故後一度会ったきりです。 保険から慰謝料が出るとの事ですが、私の要求額とは大きくかけ離れたものでした。しかし、相手方の態度は自分の起こした事柄の重大さ に全く気付かず、お金の事は保険で、の一本やりです。事故を起こした反省も含め、相手方に何がしかの 金銭を要求したいのですが、こういった要求は通用するのでしょうか。

相手が飲酒運転など悪質である場合は、慰謝料の増額事由として考慮されるケースが多いのが判例の傾向ですが、 その金額については怪我の程度などにより様々で、明確な基準はありません。 なお、正当な損害賠償額については保険から支払われるため、加害者に自己負担を強要することはできず、それにより反省を促すこともできません。 反省を促すなどのことは、行政処分や刑事処分に委ねるしかありません。

 

恐怖感の評価

慰謝料は精神的苦痛に対して支払われるものですが、実務上のそれは怪我の内容と通院期間によって定められた基準により計算されています。 そのため入通院慰謝料とか傷害慰謝料と呼ばれています。「精神的苦痛」には事故に遭う瞬間の「恐怖感」も含まれると思われますが、 それでは事故の瞬間「死」を想起するほどの恐怖を味わったものの、 幸い無傷で済んだ、あるいは軽い打撲程度で済んだというようなケースでは、慰謝料はどのように評価されるべきでしょうか。

  • ▼ 事例・判例
  • □ 被害者の主観的恐怖感ないし驚愕を理由として当然に 慰謝料請求が是認されるものではなく、これが認められるか否かは、その加害行為の性質、違法性の程度等を総合的に考慮し、通常人を基準として、 その恐怖が、社会通念上、加害行為と相当因果関係のある精神的損害に当たると評価しうるもので、 行為者に金銭をもってこれを慰謝させるのを相当とするか否かによって決せられるものと解するべきである。
 

検討すべき苦痛の種類

精神的苦痛には、例えば次のようなものがあります。慰謝料算定の参考にしてください。

(1)通院に係るもの

「直接的」
時間を失う、怪我の痛み、手術の痛み、治療の痛み、リハビリの苦痛、体調を崩す、薬の副作用、成長への影響、出産への影響、気分落ち込み、苛立ち、周囲への気兼ね、 家事が満足にできない、仕事が満足にできない、スポーツや趣味ができない

「反射的」
勉強の遅れ、仕事の遅れ、機会(契約、受験、進級、資格取得、就職、昇進、結婚、旅行、行事)喪失、信用失墜、社会復帰への不安、解雇、運動不足からくる体調不良

(2)後遺症に係るもの

自信喪失、他人の視線、再発(骨折等)の恐怖、将来への不安、夢・目標をを断念、劣等感、集中力低下、学力低下、仕事の処理能力低下、社会復帰までの失われた時間、将来への不安 再就職、結婚への不安、特技の喪失、専門性の喪失、資格の喪失、不便、離婚、家庭の崩壊、近親者の負担、いじめ、偏見、健康悪化、憎悪、老化の進行、転居、 廃業、自殺念慮、並はずれた能力の喪失

(3)基準だけでは評価されにくい問題点

後遺症の重さの評価、余命期間との関係、見えにくい長期的問題、回復可能性、馴化、被害者の努力、相当因果関係

  • ▼ 事例・判例
  • □ ひき逃げをした加害者に対して、通常の慰謝料300万円に2割を加算するとした事例。
  • □ 加害者が損害賠償請求について保険会社まかせにして放置したことが慰謝料の増額事由とされた事例。
  • □ 死亡事故で加害者にも過失があるのに、それを認めずに争っている事について慰謝料の斟酌事由とした事例。
  • □ 幼児の死亡事故で、唯一の子供である事を斟酌事由とした事例。
  • □ 大学一年生が事故により留年したケースで、留年損害を否定し、慰謝料の斟酌事由とした事例。
  • □ 未婚女子の外貌醜状障害につき、多大な苦痛や困難を受けることを考慮し、基準の3割増の慰謝料が認められた事例。
  • □ 物損事故で加害者が示談交渉を保険会社任せにした対応につき、慰謝料が否認された事例。
  • □ 保険会社が被害者に対して矛盾した主張等を行い、精神的苦痛を深刻にしたことを慰謝料斟酌事由とした事例。
  • □ ひき逃げによる刑事処分を免れようと画策し、逮捕が遅れたため、被害者が精神的苦痛を被ったことを斟酌事由とした事例。
  • □ 長期欠勤により昇給昇格が遅延した損害につき、昇給昇格が確実であったとはいえず、慰謝料で斟酌するとされた事例。
  • □ 後遺障害14級10号となったが、その後も痛み・しびれで通院をしていることについて斟酌事由とした事例。
  • □ 半月板損傷で5か月入院した被害者が、失職のおそれから早期職場復帰した事情を慰謝料斟酌事由とした事例。