他人の意義

交通事故オンライン損害賠償編

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伊佐行政書士事務所

自賠法第三条の他人とは

【運転者が特定できない場合に、乗車していたものを全て他人として保護した例】
原告ら主張の日時・場所において本件自動車が原告ら主張の気動車と衝突し、本件自動車に乗っていた恵一と益雄が即死したことは当事者間に争いがない。 (中略)結局、事故当時、本件自動車に乗っていた二名の中、いずれがこれを運転していたかにつき、証拠上明らかにすることはできない。 被告が亡恵一の使用者であることは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、被告は、青果物仲買商であるが、本件自動車を所有し、恵一にこれを運転させて 商品の運搬等の業務を行うほか、同車を同人に通勤等にも利用させていることが認められ、この事実によれば、被告は自賠法三条にいう本件自動車の運行供用者 であって、同条本文に定める責任を負うべき地位にある。しかるに、亡益雄が同条に定める運転者であるか、あるいは運転者以外の他人に該当するかいずれとも 明らかにすることができないことは一に述べたところである。この場合、自賠法一条に定める法の目的に鑑み、自動車の運行によって生命・身体を害された者が 運行供用者又は運転者に該当することが明らかとならない限り、同法三条の他人として保護されるものと解すべきである。 (東京地裁昭和48年9月6日)

【二名の運転手の一方が助手席で仮眠中に、他方の運転手の過失により事故にあい死亡した場合に、仮眠中の運転手が自賠法三条の他人にあたるとされた例】
訴外勝同山本は自動車運転者として被告会社に勤務していたこと、本件事故は引越し荷物を積載した追突車が尼崎市にある被告会社尼崎営業所を出発し、 埼玉県大宮市に向かう途中で起こったものであること、追突車には訴外勝、同山本が搭乗して交互に運転していたが本件事故発生時には訴外山本が運転を 担当し訴外勝は助手席に座していたことは当事者間に争いがなく、右事実に(証拠略)を総合すると、被告会社には工務職服務規程がありその第二十四条には 「長距離運行その他業務上の必要により運転者二名以上を搭乗させた場合、交替運転者は当該運転者と同様の職務と責任を有し運転者と協力して安全運行を 果たすことに努めなければならない。」旨定められていること、被告会社と被告会社労働組合との間の労働協約には、200km走行するごとに15分休憩 するよう定められていること、被告会社尼崎営業所長高地甲子雄は訴外勝、同山本が出発するに際して「大切な荷物であるから25日の夕方ごろまでに着く予定で ゆっくり行ってくれ。遅くなってもいいから静岡で一泊してくれ。」との指示を与え各自に宿泊代として金800円を手渡したこと、訴外勝、同山本はそれほど 疲労していなかったので旅館には宿泊せず、24日午後6時ごろ約一時間、25日午前0時ごろ約一時間車を止めて休憩したこと、訴外勝と同山本は三時間 交替で運転したが、25日午前三時ごろ訴外山本が運転を担当し事故発生時は訴外山本が運転していたこと、訴外山本は訴外勝の運転中助手席に座して約四時間 仮眠していたこと、訴外勝は事故発生当時助手席に座して仮眠していたことが認められるところ、右事実に当裁判所に顕著な長距離運送の実情ならびに 被害者を広く保護しようとする自賠法三条の立法趣旨及び同条が民法第709条、第715条の特則考えられる点を併せ考えると、前記工務職服務規程、 労働協約および高地甲子雄の指示は、長距離運送の安全を期する一応の目安としての指示にとどまるものと解すべく、危険に際して担当運転者からの要請がある場合など 特段の事情のない限り、交替運転者は自己の当番に備えて、休養睡眠をとることは許されるものであると解すべきである。そうであるとすれば、 訴外勝は事故当時は前記工務職服務規程労働協約の存在にもかかわらず同法第三条にいわゆる他人に当るものといわざるをえない。 (大阪地裁昭和43年5月10日)

【業務命令に違反して、助手に運転をさせた運転手が自賠法三条の他人に当るとされた例】
亡弘は、被告会社運転手であり、事故当日荷物配達の為の事故車の運転担当者であったのに反し、被告川野は、運転資格はあるものの助手にすぎなかったこと 及び被告会社は、亡弘や被告川野を含めた同会社従業員に対し、運転資格のある助手でも運転をしてはならない旨の業務上の指示命令をたえず与えていたことが 認められる。しかし自賠法三条の他人とは運行供用者および現実に運転をしていた者以外の全てを包含するものであり、ただ現実に運転をした者をして絶対的に 服従せざるをえない拘束状態においた者のみは、たとえ自らハンドルを握らなくても右現実の運転者をして道具として使用しているにすぎないから他人にあたらない ものというべきである。また被告川野は内規では運転を禁じられていたものの運転資格があったものであり、方向の指図は別として、こと運転操作に関しては 独自の裁量によりなしていたものであるから、亡弘が本来の運転担当者であり、一時的に助手席に移ったにとどまるという事情があっても、亡弘が運転者たる 地位を離脱せず、いわゆるハンドルを貸したに過ぎないものとも、到底いいえない。すると亡弘は自賠法三条のいわゆる他人に該当する。 (大阪地裁昭和41年8月20日)

【夫が運転する自動車に同乗中の妻が、自賠法三条の他人に当るとされた例】
原告がハンスの妻であって、生活を共にしているものであることは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、ハンスと原告とは昭和39年7月に結婚し、 事故当時は原告の母の所有家屋に居住し、夫婦及び原告の母の三人で生活をし、家計はハンスの著述業や語学教授等により得た収入によってまかなわれていたこと、 本件自動車はハンスが昭和41年2月末に事故の通勤その他仕事に使用するためその名をもって金80万円で購入しそのガソリン代、修理費等も全てハンスが支払い 運転もハンスが専らこれにあたり、原告個人の用事のために使用したことはなく、原告がドライブ等のために同車に同乗することも稀であったこと、原告は 同年3月ごろから自動車の運転免許取得のため教習所に通い運転練習を始めたが、事故当時はまだ免許取得に至らず仮免許の直前くらいであったこと、事故当時は ハンスが本件自動車を運転し原告が左側助手席に同乗し埼玉県内の正丸峠に行く途中であったが原告はハンスの運転を補助するための行為を命ぜられたわけでもなく、 また現にそのような行為は何もしていなかったことが認められる。以上の認定事実からすれば本件自動車はハンスの特有財産と考えるのが相当であって、 原告がこれに対して共同所有権を有していたと見ることはできないのみならずさらにこれに対して何らかの使用権を有していたともいうことを得ず、 その他原告が本件自動車について運行支配を有していたことを認めさせるような事実は認められない。従って原告は本件自動車を自己のために運行の用に 供する者には該当せず、また事故当時その運転者または運転補助者であったとすることができないことは前認定の事実により明らかであるから、結局原告は 当時自賠法第三条の他人に該当する者であったと考えるのが相当である。
夫婦間において、その一方が何らかの故意または過失により他方の身体を傷害した場合その行為はもとより違法であって、よって生じた損害を賠償しなければ ならないが、その故意過失の態様及び負傷の程度によっては、その行為の違法性が阻却される場合の存しうることはこれを認めるべきであろう。 しかし当事者間に争いのない本件事故はハンスが自動車を運転して県道を飯能市方面から名郷方面に向かう途中((証拠略)によれば、道路幅員は4.8メートルである。) 対向して進行してきたバスとすれ違うに際し衝突を避けようとして車を左に寄せすぎたため左側の崖から車ごと崖下の名栗川に転落し、よって同乗中の原告が 負傷したというものであること、(証拠略)によって認められる原告が本件事故によって受けた負傷は下腿骨骨折、複式挫傷であって、全治まで約6ヶ月を要した 事実を総合し、ハンスの過失が自動車運転上の不注意であって極めて危険性の大きいものであること及び原告の負傷の程度が重大であることから考えるときは、 ハンスの原告に対する行為がその違法性を阻却される場合にあたるとはとうてい認めがたい。
以上によれば原告はハンスに対し自賠法第三条に基づき、その受けた損害の賠償を求めることを得べく、従ってまた被告に対し同法第16条に基づき保険金額の 限度において損害賠償額の支払を請求することができるものと認むべきところ、この請求が権利の濫用に当るか否かにつき判断するのに、自賠法の立法の趣旨は 、同法第1条、第3条、第5条、第11条に規定されているとおり、自動車を自己のために運行の用に供する者に対し自賠責保険の契約の締結を強制してその 自動車の運行によって他人の生命身体を害し、運行供用者が被害者に対して損害賠償の責任を負うべき場合に、運行供用者の損害を保険者が填補する道を講じる ことによって運行供用者の資力を確保しひいて被害者に対する損害賠償を保障し、もってその保護を図ろうとするものであり、さらに進んでは同法第16条によって 右のように運行供用者の被害者に対する損害賠償義務が発生したときは、被害者から直接保険者に対して保険金額の限度において損害賠償額の支払を請求することを 認めて、被害者に迅速簡易確実に満足を得させることとしているのである。従って同法の適用を見るのは加害者と被害者とが全く他人であるような、被告のいわゆる 社会的生活関係についてであることが通例であるけれども、だからといって夫婦間のような生活共同体の構成員相互間の事故について同法の適用がないとする 除外規定は存しないし、また条理上これを適用することが不都合であるとする根拠も存しない。夫婦間に協力扶助義務が存することは、これと平行競合して夫婦間に 損害賠償の権利義務関係を認めることと何ら矛盾するものではない。もちろん一般に夫の行為によって妻が負傷したという場合にその夫婦が共同生活を営み 円満平穏に暮らしているのであれば、妻が夫に対してその損害につき賠償を請求するということは実際上考えられないであろう。しかしその妻の負傷が 夫が運行供用者である自動車の運行によって惹起され、しかも自賠責保険が締結されているときは、これと異なり妻が夫に対して損害賠償請求の主張をすることは 保険金額受領の前提として実益があり、この場合加害者たる夫の資力を保険によって保障することによって被害者たる妻の保護を図ることは何ら不当と目すべきではなく 却って自賠法の前記立法趣旨に合するものというべきである。そうとすれば本件のように被害者たる原告が夫に対する自賠法三条に基づく損害賠償請求権あることを 前提として保険者たる被告に対しいわゆる被害者請求をすること自体何ら権利濫用をなすものではなく、その他本件にあらわれた事実関係において、原告が被告に対し その蒙った損害賠償の支払請求するにつき権利濫用と認めるに足る事実は存しない。 (東京地裁昭和42年11月27日)

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